売電単価が突然10円台へ下落し、「これまで通りでいいのか」と不安を抱える施設担当者は少なくありません。卒FITは損ではなく、電気コスト構造を見直す絶好の機会です。
この記事では、卒FIT後に企業が取るべき選択肢と、余剰電力を経済価値に変える具体策を解説します。
卒FITは固定価格での売電期間が満了した状態
まずは「卒FIT」という言葉が何を意味し、なぜ担当者が今この判断を迫られているのか、その制度的な背景から整理していきましょう。ここを押さえると、後半の対策の必然性が見えてきます。
卒FITの対象になる太陽光発電の条件を確認する
FIT(Feed-in Tariff/固定価格買取制度)は、再生可能エネルギーで発電した電気を、国が定めた価格で一定期間、電力会社が買い取る仕組みです。余剰電力買取制度が2009年11月に始まり、10kW未満の設備では「自家消費して余った分(余剰電力)」を10年間、固定価格で買い取る制度が運用されてきました。その後2012年7月に再エネ特措法に基づくFIT制度が開始されました。10kW未満の設備では調達期間10年間が満了した状態を「卒FIT」と呼びます。
一方、制度開始当初の事業用太陽光では、産業用に多い10kW以上の設備は、発電した電気を全て買い取る「全量買取」が20年間続くケースが一般的でした。10kW以上50kW未満の設備は、2020年度以降、設置形態を問わず自家消費30%以上や災害時給電機能などの「地域活用要件」を満たすことが認定の条件となり、全量売電は原則できず余剰買取が基本となりました。自社の設備がどの区分・どの買取方式に該当するかで、満了後の戦略は大きく変わります。まずは認定通知書や電力会社との契約書で、設備出力と買取方式を確認することが出発点になります。
卒FITで起こる売電価格の変化を理解する
卒FITで最も大きなインパクトは、売電単価の下落です。FIT期間中は30〜40円台/kWhといった高い単価で買い取られていましたが、満了後は各電力会社が独自に設定する価格へ移行し、おおむね10円/kWh前後まで下がるケースが多くなっています。
なぜここまで下がるのかというと、固定価格の原資になっていた「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金=電気料金に上乗せされ、再エネ普及の費用を国民全体で負担する仕組み)」が、満了後の電気には充てられなくなり市場原理に基づく買取価格へ移行するためです。つまり、これまでの高単価は制度による下支えがあってこそでした。卒FIT後は「安く売る」よりも「高い電気を買わずに済ませる」自家消費のほうが、経済的メリットが大きくなる局面が増えています。電気の購入単価が近年上昇傾向にあることも、この判断を後押ししています。
卒FITの時期を調べる方法を知っておく
満了時期は、10kW以上の設備では売電を開始した年度から20年後、10kW未満では10年後と決まっています。2015年度開始なら2025年度、2018年度開始なら2028年度が満了の目安です。契約中の電力会社からは満了前に事前通知が届くのが通常ですが、通知を見落として手続きを放置すると、不利益なプランのまま自動継続されたり、一部の電力会社では無償引き取りに近い状態に陥ったり買取価格が大幅に低下するリスクもあります。
対策としては、通知を待つだけでなく、売電開始年度を自社で把握し、満了の1年前を目安に選択肢の比較検討を始めることをおすすめします。検針票に記載された「供給地点特定番号」や顧客番号は、後述の売電先切り替え手続きにも必要になるため、あわせて保管しておくと段取りがスムーズです。
卒FIT後の選択肢は自家消費と売電の見直しに分かれる
制度の全体像がつかめたところで、実際にどう動くべきかという行動の話に移ります。卒FIT後の打ち手は大きく「売り方を変える」「使い方を変える」の2軸に整理でき、それぞれに向き不向きがあります。
卒FIT後もそのまま売電を続ける選択肢がある
最もシンプルなのは、現在契約中の電力会社と買取契約をそのまま更新する方法です。多くのケースで自動継続となる可能性が高いため、新しい売電先を調べる手間や切り替えの時間がかからないのが利点です。設備の運用体制を大きく変える余裕がない場合の、当面の選択肢になります。
ただし、この選択には落とし穴もあります。自動継続される単価が、市場で提示されている他の買取価格より低いままになっている可能性があるためです。対策として、更新前に自社エリアで契約可能な複数の事業者の買取単価を比較し、「継続が本当に有利か」を一度は検証してください。手間を惜しんだ結果、年間で数万円単位の売電収入を取りこぼすことは避けたいところです。
卒FITを機に売電先の電力会社を切り替える
2016年の電力自由化以降に参入した新電力の中には、大手電力会社より高い単価を提示したり、蓄電池購入とセットで買取価格を上乗せするなど、独自メニューを用意する事業者があります。少しでも売電収入を高めたい場合、切り替えは有力な選択肢です。
手続きは、原則として現契約の解約連絡が不要で、切り替え先の事業者が旧電力会社への解約と切り替え申請を代行します。標準的な流れは以下の通りです。
売電先を切り替える際の標準的な手順
- 自社エリアで契約可能な買取事業者を比較・選定する
- 最新の「供給地点特定番号」と顧客番号が記載された検針票を用意する
- 切り替え先のWebサイトまたは電話から申し込む
- 切り替え処理を待つ(移行完了までおよそ1ヶ月)
注意点として、既存契約の条件によっては変更時に手数料が発生する場合があります。切り替え前に現契約の規約を確認し、上乗せされる単価差と差し引きで本当に得になるかを判断してください。
卒FIT後は蓄電池を導入して自家消費を増やす
売電単価が下がった今、日中に発電した余剰電力をためて必要なときに使う蓄電池は、自家消費を高める有効な手段です。産業用では、日中の余剰を夕方の需要ピークに放電する「タイムシフト」や、契約に影響する最大需要電力(デマンド値)を蓄電池の放電で抑える「デマンドカット」といった運用で、経済価値を生み出せます。
蓄電池の主流はリチウムイオン電池、なかでもリン酸鉄系(LFP)です。産業用のLFP電池は交換目安が15〜20年とされ、用途や温度管理、運用条件により変動します。工場や倉庫の敷地内・電気室に据え付ける屋外キャビネット型やコンテナ型が中心で、事業所のBCP(事業継続計画)対策として、停電時に生産ラインや冷蔵設備の電源を維持する役割も果たします。ただし、電気代削減効果は施設の電力使用パターンや単価、運用設計によって大きく変わるため、導入前に個別のシミュレーションで効果を見極めることが重要です。
卒FIT後は電気自動車やエコキュート連携も有効になる
設備投資を抑えつつ自家消費を増やす工夫として、既存の電気設備の運用時間をずらす方法もあります。たとえば電気式給湯器のエコキュートは、FIT期間中は電気代の安い夜間にお湯を沸かす運用が一般的でしたが、卒FIT後は沸き上げ時間を昼間に変更することで、太陽光の余剰電力をそのまま給湯エネルギーとして使い切れます。
同様に、業務用車両を電気自動車へ切り替えている事業所であれば、日中の余剰電力での充電も自家消費の受け皿になります。こうした運用シフトは、大きな追加投資なしに「余った電気を安く売る」構造から脱却する第一歩です。まずは自社で日中に電力を消費できる設備を洗い出し、稼働時間を発電ピークへ寄せられないか検討してみてください。
卒FIT対策は施設の条件に合う選び方が重要になる
選択肢が出そろっても、正解は施設ごとに異なります。ここでは、自社がどのタイプに当てはまるかを見極め、投資判断で失敗しないための考え方を整理します。
卒FITで売電向きの施設と自家消費向きの施設を見極める
判断の軸は、発電した電気を「その場で使い切れるかどうか」です。日中に多くの電力を消費する製造業や、平日昼間に稼働する事業所は、発電量を自家消費で吸収しやすく、高い購入単価を回避できるため自家消費向きです。逆に、休日や夜間が中心で日中の消費が少ない施設は余剰が多く発生するため、売電先の見直しで単価を確保する戦略が効いてきます。
実際、自家消費型の導入が電気コスト削減に直結した事例があります。ある製造業では、出力195kWの購入モデルを導入し、初期費用約2,700万円に対して年間電気代削減が約617万円、投資回収は約4.38年と見込まれています(購入モデル・自家消費中心の中小規模製造業の例。当社実績)。副次効果として、太陽光パネルの面積が工場立地法上の「環境施設」として算入でき、駐車場スペースの確保にもつながりました。自社の稼働パターンを客観的に把握することが、選択の第一歩になります。
卒FITで蓄電池導入を判断するときの費用対効果を見る
蓄電池は初期費用が大きいため、費用対効果の見極めが欠かせません。工事費込み価格の一般的な相場の目安は以下の通りです。
産業用蓄電池の容量別価格目安(工事費込み・一般的な相場)
| 容量規模 | 価格目安 |
|---|---|
| 50kWh規模 | 500〜600万円 |
| 100kWh規模 | 1,000〜1,500万円 |
| 500kWh規模 | 4,000〜7,500万円 |
ここで注意したいのは、蓄電池を「単独」で評価すると効果が見えにくい点です。太陽光発電の余剰を蓄電するタイムシフト効果と、需要ピークを抑えるデマンドカット効果を組み合わせて評価すると、経済性の見え方は大きく変わります。判断にあたっては、施設の30分ごとの需要データを用いて、放電をどのタイミングに割り当てると最大需要電力を効果的に下げられるかをシミュレーションすることが実務的な近道です。
卒FITで後悔しないために契約前の注意点を確認する
導入検討で現場が実際に直面しやすいのが、「発電シミュレーションが本当に信頼できるのか」という問題です。設備規模が同じなのに、ある会社の想定発電量だけ突出して多い場合、契約を取るために数値を盛っている可能性があります。業界では想定と実績で10〜20%の乖離が生じることもあるため、シミュレーションの根拠を必ず確認してください。判断基準として、パネルの経年劣化率(年間0.5%程度)が織り込まれているか、日射量データの出典が明示されているかをチェックすると精度を見抜けます。
もう一つ、異常に安い見積もりにも注意が必要です。kW単価が相場を大きく下回る場合、部材や施工品質が削られているリスクがあります。対策として、見積書に部材メーカー・施工法・故障時の対応フローが明記されているかを確認してください。産業用太陽光のkW単価は規模帯によって異なり、当社実績では低圧(50kW未満)で15〜20万円/kW、200kW程度までで12〜15万円/kW、500kW程度までで11.7〜14.4万円/kWが目安です。この範囲から極端に外れる見積もりは、「何が含まれていないか」を突き止めることが後悔を防ぐカギになります。
卒FITは再エネ活用と地域電力の広がりにもつながる
卒FIT電源は、個々の施設のコスト対策にとどまらず、より大きな脱炭素の流れの中で新たな価値を持ち始めています。ここでは、自家消費した先にある社会的な意義に視野を広げてみましょう。
卒FIT電力は企業や自治体の再エネ調達にも活用されている
卒FIT後の余剰電力は、固定価格の下支えを失った代わりに、CO2を排出しない「環境価値」を持つ電源として、企業や自治体の再エネ調達ニーズと結びつくようになっています。上場企業を中心に、再エネ調達やScope2排出量削減への対応が求められる中、自家消費で生み出したクリーンな電気は、その定量的な裏付けにもなります。
さらに、蓄電池を備えた複数の需要家をネットワークでつなぎ、電力を融通し合う「VPP(Virtual Power Plant/仮想発電所=分散した設備を束ねて一つの発電所のように制御する仕組み)」の構想も進んでいます。卒FITを迎えた設備が、こうした地域の電力ネットワークに参加していく可能性も見据えておくと、単なる売電収入以上の価値が見えてきます。
卒FIT電源の活用はカーボンニュートラルにも貢献する
制度面でも、自家消費型の再エネ活用を後押しする動きが強まっています。2028年度からは化石燃料の輸入事業者に課される「化石燃料賦課金」が始まるなど、化石燃料由来の電気には今後コストが上乗せされていく方向です。自家消費による再エネ活用は、こうした将来のコスト上昇リスクを回避する備えにもなります。
複数拠点でこの取り組みを進めた例として、首都圏のあるスーパーマーケットのグループでは、59店舗中20店舗に太陽光を設置し、合計出力3.2MW(PPA6設備・購入14設備)で年間約7,500万円の電気料金削減を見込んでいます。当初はCO2削減が目的でしたが、2022年後半の電気代高騰でコスト削減の狙いが加わり、導入が急速に拡大しました。卒FITをきっかけとした自家消費への転換は、コストと脱炭素の両方に効く一手なのです。
卒FIT後の設備運用と再導入をワンストップで支える体制
卒FIT後の自家消費への転換や新規の再エネ導入では、太陽光発電を「所有して購入する」か「初期費用0円で使う」かの判断が重要になります。ここで、太陽光発電設備を事業者所有モデルで設置し、発電した電気を従量課金で供給するPPA(Power Purchase Agreement/電力購入契約)と、自社で設備を保有する購入モデルの両面を提案できる事業者であれば、施設規模や財務方針に合わせた中立的な比較が可能です。
株式会社オルテナジーは、PPA事業者とEPC(設計・調達・建設)事業者の二面性を持ち、両モデルの同時提案ができます。運用保守(O&M)は5,000件以上を管理し、独自の監視・制御システム(EMS=監視・制御を担うシステム全体)で異常の予兆を検知して対応します。施工は自社の施工管理者が協力会社を直接統率する体制(下請けへの丸投げをしない)で行い、想定発電量に対する実績達成率は当社施工実績ベースで97.4%を記録しています。卒FIT後の運用見直しから再導入まで、シミュレーションの精度と運用体制を含めて相談できる体制を整えています。
まとめ
この記事では、卒FITの意味と売電単価下落の背景、満了後の「売る」「使う」双方の選択肢、そして施設条件に応じた選び方と契約前の確認ポイントを解説しました。卒FITは収入減という後ろ向きの出来事ではなく、高い電気を買わずに済ませる自家消費へと構造を転換し、脱炭素とコスト削減を同時に進める好機です。
大切なのは、目先の売電単価や見積もりの安さだけでなく、シミュレーションの根拠や運用体制まで含めた長期のトータルコストで判断することです。自社の稼働パターンを見つめ直せば、最適な一手は必ず見つかります。
オルテナジーでは、太陽光発電設備の保守・運用から新規導入まで、お客様の課題に合わせたソリューションを提供しています。電気コスト削減や再エネ導入などのお悩みは専任スタッフにお気軽にご相談(無料見積もり)ください。







